兄弟の切磋琢磨から生まれる品質。
———バルツバインさんは寄居で豚を育て加工をしますよね。仕入れはどうされてますか?
坂本:豚肉を仕入れている他のソーセージ屋さんでは外国産の場合もあれば、あるブランドを狙って買う場合もあります。
仕入れる場合は購入する豚を自分で選べるけど、ウチみたいに自社で育てていると、良くても悪くても自分で育てた豚を使うことがデメリットにもなり得ます。
生き物なので個体差もあるし、一年を通し季節でも肉質が違うので難しいです。基本的に生き物だから安定は難しいです。
———もっと簡単なのかと思ってました。
坂本:仕入る場合は自社農場から出荷された豚肉を取り扱う問屋に注文して買い戻しをします。今回買い戻したした肉の状態を弟に伝えて、次回改善してもらったりもします。季節によってどの豚を購入するか選択もできますね。
———弟さんはお兄さんに文句を言われないような豚を育てる、逆にお兄さんはその豚の価値を最大化するための加工する。そうすることで相乗効果でより良いものになるんですね。
坂本:生き物を扱っているから、質が悪い時期も当然あるけど、悪いからといって廃棄するわけにはいかない。そこをどう美味しく加工するかの技術力が試されます。仕入れた豚肉に対してどう美味しく加工するかが腕の見せどころです。
肉質によっては当初予定していた製品化から変更することもあります。肉質を確認してからどう使うかを考えながらやっています。
———毎回違うわけですね。
坂本:そうですね。豚は生まれて半年くらいで出荷されるけど、半年間の環境の違いや、どれだけ餌を食べているかでも肉質が変化します。たぶん弟は、どうするとどうゆう肉質になるか分かっています。
———すごい。
坂本:弟との肉質に関しての情報交換は必須で、「今回は凄く脂が付いてる。その脂を活かすならこの商品に加工した方が良い」など生産側の意見も聞きながら、最終的な加工品を決めています。
———加工したものはレストランなどに卸しますよね?その際にも料理人に情報を伝えますか?
坂本:レストランによって好みの肉質が違うので伝えますね。ウチは一つの品種しか扱っていないけど、お店の好みそうな肉を卸すようにしています。「今回好みの肉質じゃないかもしれないですけど、どうですか?」と確認もします。
———これこそが「ものづくり」ですね。毎回マニュアル通りにできない。加工したお肉も販売されていますが、それも微妙に違うということですね。
坂本:そうです。一年通して販売しているので、注意して食べると違いが分かるかもしれない。ただ一般のお客さんからすると、そこまで違いは分からないと思います。
———何度も食べると味の違いが理解できる様になるんでしょうね。どうして、自分で豚を育てて販売までする事に?
坂本:元々農場で働いていて、僕が入る前から販売場はあったけれど機能していなくて。父が育て加工・販売までやりたいと立ち上げた事業だったけど、実際にはまだ実店舗で販売してませんでした。カタログや卸販売が主になっていた状況で、販売所がありながら育て加工はするけれど、販売は人任せにしていることが悔しく、僕が入ってからは販売まで自分たちでやろうと動きました。
———受賞しブランド価値が上がった気がします。さらに店を新しくオープンし、順調にステップアップしていますね。
坂本:イートインも今年中にはやりたいですね。
ウチは養豚業がメインですが、自分たちで作ったものを自分たちで販売したいなと。生産者は生産側のプロであって販売のプロではないが、その中でも販売を強化し自分たちで売るというモデルケースを作りたいですね。
———既に良いモデルになっていると思いますよ。素晴らしい挑戦です。今まで農家はあくまで生産側で、販売は農協に任せるという役割分担だったが、新店舗も含めるとその形が実現されているなと。
坂本:いえ、まだまだです。小売り販売まででは不十分です。今後イートインを始めるにあたり「食べれる」、さらにはBBQも視野に入れ「体験」までをやりたいと考えています。うちだからできることをやっていきたいですね。
高い美味しさの基準を持つ
———秩父の坪内さんにシンパシーを感じられて、色々と一緒にやられていますが、どのあたりに共感されたのでしょうか。
坂本:実は専門としては真逆の立ち位置で、坪内さんは無添加で僕は添加物は使っているから相反する関係ではあるけど、作り手としての情熱は同じだなと。
———寄居の豚食文化の強みは「こだわり」だと思っていますが、豚を育てる部分と、加工して製品化する部分とで、それぞれのこだわりはどの辺にありますか?
坂本:どちらも共通するポイントとしては「美味しいものを作る」というところです。
昔、師匠から「自分なりの美味しさの基準を作れ」と教えられ、様々な豚肉を試食しながら弟と一緒に基準を作りました。自分たちなりに目指す方向性を見つけたつもりです。
生産も加工も目指すところは一緒で、それは「自分たちの美味しい基準を満たしているかどうか」。基準を作る際も、中途半端なものを食べていると中途半端な基準しかできないと感じたので、まず最高を知るべきだなと思い、良いと言われるものをたくさん食べました。部位各所でも違いがあるので、豚丸々一頭食べる必要がありました。
ある程度基準が完成したら、基準に向かいどう自分たちが近づけるかになります。
生産と加工は別ものだと認識されていますが考えることは同じで、豚肉が美味しくないと美味しい加工品は作れない。弟と一緒に美味しいものを意識して作らないと中途半端なものしかできません。
———寄居にバルツバインさんの豚肉を広げるためにやっていることは?
坂本:ブランディングは意識したことなくて、自分のできることをやっていたら注目していただけた感じです。寄居町外の人たちが目を向けてくれた事によって、町内の人も目を向けたくれた感覚です。特に営業活動はせず、気に入ってくれたら買っていただければというスタンスです。
農場もお店も寄居にあるから、地元で消費してくれることが嬉しいです。寄居の方やお店が使ってくれることが一番嬉しいです。
———寄居の方達にたくさん食べていただけると、それを見た町外の方も食べたくなる。高級なイメージもあるけど、寄居の方々に親しまれる形を豚食会議でも考えられたらと思いました。
坂本:それは願ったり叶ったりです(笑)
———生産と加工の両方を担う事で、ロスに対するメリットや現状を教えてください。
坂本:出荷する全ての豚を加工しているわけではないです。週に80~100頭を問屋に出荷して加工分として戻ってくるのは4~10頭くらい。必要な分しか入れないからほぼロスはないです。
———兄特権で質の良いものを優先的に回してもらったりはするんですか?(笑)
坂本:それはありますね(笑)
———以前、血のソーセージを作られてましたけど、食べてみたいなと思いました。
坂本:あれは日本人には中々受け入れられないですよ(笑)
———あそこまでやると、本当にロス0になるのかなと。
坂本:ヨーロッパは顔から尻尾の先まで使います。血も使いますしね。
———ありがとうございました!
インタビュアー:寄居豚食文化会議メンバー
2020.6.10